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夏休み初日だし天気はいいし、海の家も砂浜も、海の中までも混んでいる。
目の前にあった海の家に上がり、とりあえず場所を確保すると、イオリとユウガは浮輪をふくらませ、とっとと砂浜に駆けて行った。
「元気だねー、あの二人。」
「なー。」
「相葉は行かねえの?」
「んー、行くけど腹減ったから何か食ってから行くわ。ナツキも黒田達と先に行ってていいからな。」
腹が減っていたのは事実だった。昨夜から何も食ってない。
でもナツキを先に行かせたのは、正直一人になりたいからだった。
ナツキが寂しそうな顔をしたのは分かったが、気付かないふりをした。
それはそれとして、更衣室から出てきたナツキの肌とビキニの白さはまぶしくて、俺は思わず目を細めてしまった。
「おーおー、ナツキちゃん。相葉が見とれてるぜ。」
そんな俺の顔を見て、黒田が冷やかす。
「ざけんな、バカ。」
「照れんなって。んじゃ相葉、俺らあの岩場の辺にいるから、食ったらさっさと来いよ。」
「おぉ。」
やっと一人になれた所で俺は、売店で買ったおにぎりをぱくつきながら、辺りの喧騒に耳を傾けた。
がやがやとした話し声が、やがて一つの音のように聞こえてくる。
ここはこんなにも人で溢れているというのに、そこから俺だけが一人、切り離されたみたいな感じがした。
それからしばらく何を考えるでもなくぼんやりとし、痺れを切らしたのかナツキが迎えに来たので、ようやく重い腰を上げて海辺へ向かった。
黒田とエミリは既に遊び疲れたのか、パラソルの下で仲良く寝そべっている。
イオリとユウガは海の中で大きな浮輪に二人で入り、イチャつきながら楽しそうにしている。
ナツキに寂しい思いをさせていたのは明白だった。
そうだよな。付き合い始めて一カ月くらいのカップルって、きっともっとテンション高いはずだよな。
いくら今まで女とろくに付き合ったことがなくて、こういうイベントとか経験ないっつったって、さすがにナツキが可哀そうになり、遠浅の岩場を選びながら少し沖まで二人で泳いだ。
ナツキがはまっているピンクの浮輪には周りにロープが回っていたので、それをつかんで引っ張るとナツキは楽しそうに笑った。
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