4 違和感

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「元気出てきたねー、啓ちゃん。良かった。」 テトラポッドで組み上げた岩場に、俺の手を掴んでよじ登りながら心底ホッとしたような笑顔でナツキが言う。 「おぉ。ごめんな。気ぃ遣わして。」 「ううん。そんなのいいんだけど、本当に具合が悪いなら心配だなぁって。」 「おにぎり食ったからもう大丈夫。ナツキの水着もイケてるし。」 チラッと横目で見ると、ナツキは顔を真っ赤にして俯いた。 そして、 「ありがと。ちょっと派手かと思ったんだけど、イオリが可愛いって言ってくれたから。これにしてよかった。」 と早口で一気に言い、照れながらもにっこりと笑った。 「そっか。似合ってるよ。お前肌白いし。」 似合ってるから似合ってると、そう素直に言っただけだったのに、俺も何か照れた。 普段女に向かって、こんなキザっぽいこと言うことねえしなぁ。 女だけじゃねえか。直季と服とか買いに行っても「いんじゃね?」くらいしか言ってやったことねえかも。 あいつにも「似合う」とか「イケてる」とか言ってやったら喜ぶのかね。 ・・・って、俺また直季のこと考えてるし。 「ナツキ、浜まで泳ぐぞ。」 俺は何かを振り切るように立ち上がり、海に飛び込んだ。 ジリジリと焼かれていた肌に、冷たい海水が気持ちいい。 水面に上がって岩場を振り返ると、ナツキは浮輪を抱えたままどぶんと飛び込むところだった。 その姿がかわいらしくて、笑えた。 大丈夫。俺、ナツキのことが好きだ。 俺は泳いでいる間なぜかそんなことを、一生懸命自分に言い聞かせるように繰り返していた。 浜辺に着くと黒田達が、売店から簡単な食べ物と大量のビールを買ってきて四人で宴会を始めていて、俺はみんなから「おせーよ!」と怒られ。 アルコールが入った所でやっとエンジンがかかったみたいで、ユウガから一気コールやシャンパンコールなど教わりながら日暮れまで騒いで、エミリのマンションへ向かった。 女たちがカレーを作るというのでそれを冷やかしながら待ったり、ナツキが横で見てたから一生懸命食ったりして。 俺もなかなか、かわいいとこあるじゃんな。
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