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駅でバスを降り、俺達の通う高校へと続くなだらかな長い上り坂を歩きながらそんな想像をし、思わず笑いが零れてしまった。
「何だ、ヤラシーな啓之介。」
「いや・・・お前ってそこらの女より女顔だよな。」
「何だと?!」
「直季は可愛いってことさ。」
俺がそう言うと、途端に直季は顔を真っ赤にして怒りだした。
「なっ、何言ってんだ、バカ。」
耳まで赤くしてそっぽを向く直季の様子がおかしくて、ますます笑える。
俺より頭一つ分くらい下からまだ赤い顔をして無言で睨みつけているが、それがまた全然迫力がない。
何か、小型犬が足元でいっちょ前に威勢つけてる感じ?
さすがにそこまで言うと本気で怒るだろうから、言わねぇけど。
それでもまだ笑いが収まらなくて喉の奥でクックッと笑っていると、ふくらはぎに直季の蹴りが入った。
「わりぃわりぃ。」
「っんだよ、どうせ犬みてぇなヤツとか思ってたくせに!」
あれ、どうやら口にしなくても伝わってたみたいだ。
でもこれは、別に本気で怒ってしている訳ではない。
その証拠に、顔を赤くしてまで俺を睨みつけていた次の瞬間には、ケロリとした顔で話題を変えてくる。
「あ、そういやさ、ウチの母さんが啓之介に誕生日に何欲しいか聞いとけって。何がいい?」
「あー、マジ?来週だもんな。つかお袋もんなこと言ってたな。直季も考えとけよ。」
「うん。分かった。理加さん、ちゃんと言わねぇと変なモンくれるからな。」
「ははっ、だな。」
直季は俺のお袋のことを名前で呼ぶ。
もっと小さい時には「リカママ」って呼んでたけど、いつの頃からか「さん」付けで呼ぶようになった。
多分、物心つく前までは自分達が兄弟で親が四人いるって思ってたのは、きっと直季も同じだろう。
だから自分の親に対してそんなことを、言っても言われても何とも思わない。
実際その通りだしな。
俺も直季の両親に何でも明け透けに言うし、逆に本気で怒られた事だって何度もある。
何かの時の為にお互いの家の合鍵を持ち合っているくらい親同士も仲いいし、血は繋がってないけど大家族みたいな感じだ。
まぁでも、この先俺達が就職したり結婚したりすればそういうのもどうなるか分からないけど、それでも何かとツルんでそうだな。
どうせなら、俺達のガキ同士も幼馴染みにしてやりゃ、もっと大家族になって面白いかも知れねぇし。
直季に話したら、『いいな、それ』なんて言ってウケてくれるかな。
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