3人が本棚に入れています
本棚に追加
相澤颯人がこの悪魔にくだした命令は二つだった。
その1、自分の代わりに家事を行うこと
その2、絶対に外を出歩いたり、人目についてはいけないこと
この二つを、意外にも悪魔は忠実にこなしていた。
文句の1つでも出ると覚悟していたのだが、案外この悪魔は楽しんでいるようである。
颯人が大学に行っている間も、外出したような形跡はなかった。
代わりに部屋を隅々まで掃除し、お風呂場やキッチンまで、見違えるように綺麗になっていた。
大学から帰ってきてテレビを見ていた颯人が台所に視線をやると、鍋の中を覗きこんでいる黒髪の悪魔がいる。
颯人が高校時代に家庭科の授業で使用していた赤いエプロンを身につけている悪魔は、菜箸で鍋の中を一欠片摘まむと、何度も息を吹きかけて冷ましながら口にする。
すると垂れていた尻尾はピンと上向き、ユラユラと左右に揺れ始めた。
「うむ!味付けも完璧だのう!」
さもご満悦そうに顔を綻ばせると、悪魔ーーもといラビは、手際よく器に盛りつけ始める。
そして冷蔵庫に入れていたサラダを取り出すと、意気揚々と運んできた。
「颯人ー!肉じゃがを作ってみたのだ。買い物でもしてきて貰えれば、わしは何でも作るぞ」
「……肉じゃが」
悪魔の味付けとやらに不安はあったが、見た目は申し分ない。
ごくいたって普通の肉じゃがだ。
人参や玉ねぎなんかも、形をそろえて綺麗に切られている。
颯人が自分で作るよりは遥かによくできている。
「……ネズミとか入ってねーよな?」
「……おぬし、わしを何だと思っておる」
「変人黒猫悪魔」
「この耳と尻尾はわしのチャームポイントなのだ!猫ではない!」
耳と尻尾の毛が逆立ち、今にも飛び掛かりそうな勢いで金色の瞳が向けられる。
背中の羽もバサバサと不機嫌そうに動き、どうやら猫扱いされることは相当不服なことらしかった。
しかしその様子に、近所にいる警戒心の強い野良猫が怒った時の姿を重ねてしまったのは、ここだけの話にしておく。
「そもそもわしのを猫と一緒にするなどーー」
ラビが何やら話しているが、引き出しの中から試しに近所の野良猫用のおもちゃを取り出してみた。
それをフリフリしてみると、話しながらもラビの視線がおもちゃの猫じゃらしにひたと当てられる。
最初のコメントを投稿しよう!