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「いったいわしが何百年、何千年生きておると思っておるのだ。いくら似ているとはいえーー」
右に動くピンクの猫じゃらし。
釣られて右に動くラビの視線。
「猫と一緒にされては、悪魔としての面子がーー」
左に振れば、左へと視線が動く。
さらに右に振り直せば、金色の瞳は釣られて右へと移動した。
「そもそも、わしのこれは質が違うのだ。もっとーー」
座っているラビの上空で猫じゃらしをフリフリしてやると、やがてラビの言葉はピタリと止み、ただ猫じゃらし一点に集中し始めた。
じっと見つめ、ギリギリ届くような範囲まで下ろせば、ラビの右手が捕らえようと素早く繰り出される。
颯人がそれを見越して猫じゃらしを引っ込めると、ラビの右手は空しく空を切った。
今度は左上空辺りで振ってやると、ラビの左手が即座に反応する。
……猫じゃらしに翻弄されておいて、よくこんなことが言えるなと、颯人が疑わしげな視線を送ったのは言うまでもない。
そしてそんなことを思ったのも束の間。
「どわっ!?」
颯人が引っ込めかけた猫じゃらしにラビが勢いよく飛びつき、そのまま颯人目掛けて倒れこんできた。
慌ててラビを抱き止めてやるものの、助けられた本人はようやく手にした猫じゃらしにご満悦で全く意に介していないようである。
「むー……もうちっとフワフワの素材のが好みだのう。いや、これはこれで良いのだが」
何やら腕の中で猫じゃらしの感想を述べている悪魔に視線を落とすと、真っ先に柔らかそうな猫耳が視界に入ってくる。
拳二つ分くらいはありそうな大きな猫耳は、時々テレビの音に反応してピクピクと動いている。
真っ黒なサラサラとした髪の間からはこれまた大きな金色の双眼が覗き、熱心に猫じゃらしを見つめていた。
……べつに今は飛んでいるわけでもなさそうなのだが、やけに軽い。
小柄な体躯ではあるが、それにしてもという感じが否めない。
そういえばテーブルの上にある食事は颯人の分しか用意されていなかった。
味見をしていたくらいなのだから、食べるには食べられるらしいのだが……。
「……おまえは食わないのか?」
思わずそう声を掛ければ、金色の瞳は未だ猫じゃらしに捕らわれたまま。
両手でフニフニと弄りながら、返事をよこす。
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