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「わしはよい」
「……人間の食事は嫌なのか?」
「そーゆーわけでもないが……悪魔は燃費が良いのだ。だから食べずとも生きていける。それにわしまで食べたら食費が二倍になるであろう。颯人に負担を掛けるわけにもいかぬ」
いやに現実的な悪魔に、思わず笑いそうになってしまった。
食費、などという概念を悪魔が持っていることに驚きだが、押し掛けてきたくせに変に気遣ってくれている。
そもそも悪魔というのは、人間を食い物にするものだと思っていたが、そういうわけでもないらしい。
しかしこの軽すぎる体重はいかがなものかと思案した途端、金色の瞳は優しげに細められ、まっすぐと颯人を見つめてきた。
「心配してくれておるのだな。
ハヤトは優しいのう」
その見た目からくる幼さとは違う、無邪気というよりは綺麗な微笑みに、暫し惚けたように目を奪われてしまった。
……綺麗な悪魔。
何故かその表現がしっくりときて、同時にそんなことを思った自分が不思議でならなかった。
……そう、この悪魔はおかしいのだ。
おかしいのは、颯人自身ではない。
「悪魔って普段は何を食べるんだ?」
綺麗に肉じゃがを完食した颯人は、ソファーで寛ぎながら何気なくラビに問いかけた。
……肉じゃがは、ハッキリ言ってかなり美味しかった。
最初は警戒しながら口に運んだものの、二口めからは箸を休めることなく夢中になって食べ続けていた。
わりと薄めの味付けだったが、薄さが気になるほどのものではない。
病院食などにありがちな、いかにもといった風ではなく、ちょうど良い加減で味付けがなされていた。
悪魔の味覚は人間と大して変わらないらしい、ということは理解できたが、いまいち悪魔の情報が少ない。
とゆーより、少なくて当たり前なのだ。
いくら波乱万丈を嫌うとはいえ、それなりの好奇心を持ち合わせた颯人は、とりあえず気になるところから聞いてみることにした。
するとカーペットのホコリ取りに夢中になっていたラビがようやく顔を上げる。
「先刻も言った通り、悪魔は燃費が良いのだ。だから食事はそれほど重要ではないが……そうだのう。
基本的には人間とあまり変わらぬ。ただ、肉などよりは果物や野菜を好む傾向があるかのう」
「ふーん。なるほどな」
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