第2章 天使アニエル、来訪

8/13
前へ
/23ページ
次へ
「むー……見逃してくれぬか?」 「ダメダメ!見逃したりしたら自分がラグエル天使教官に殺されるっス!おとなしく天上界に帰るっスよ!」 「わしは天上界に戻るつもりはない。上位天使を目指すつもりも、転生するつもりも今のところはないのだ」 真っ直ぐと見返すラビの瞳に、ライラの黒い瞳が不愉快そうに細められた。 ……マズイ。 かなりマズイ。 突然悪魔とやらに押し掛けられ、挙げ句の果てによくわからない騒動に巻き込まれようとしている。 こんな不幸な人間が果たしているだろうか。 そう憂う颯人の前で、ライラの手に先程と同じような火の球が集束し始めた。 これが意味することは、つまり。 「じゃー、後ろの人間さんには申し訳ないっスけど。 力付くで連れ帰らせてもらうっス!!」 「っ!!ラ、ラビ!!てめっ、どーにかしろー!!」 そう叫び、こちら目掛けて勢いよく飛んでくる火の球。 それもご丁寧に三つもだ。 にも関わらず、微動だにしないラビに、颯人の頭の中で走馬灯が駆け巡る。 ……あぁ、火災保険に入っておけばよかった。 とゆーか、これは保険がきくのか? などという、よくわからない思考まで到達した頃には、既にラビの眼前まで火の球は迫っていた。 そしてなすすべなく見守っていると、突如ラビの目の前に、薄い光の壁が出現する。 「っ!?これは……」 驚愕するライラと、未だに微動だにせず、立ち尽くしているだけのラビ。 その二人の前で、火の球は光の壁に弾かれ、呆気なく空中へと霧散していった。 「…………。」 ……再び辺りを静寂が包み、ただライラと颯人だけが、戸惑いの様相で光の壁を見つめている。 すると程なくして、凛とした低い声がこの静寂を打ち破り、視界に綺麗な金色が広がった。 「……お怪我はありませんか?ラビ様」 上空からラビの前に舞い降りた金色。 長い丈の白いローブがフワリと揺れ、同時に後ろで束ねられた金色の長髪が優雅に舞った。 そして背中には、ラビやライラとは違う、白い天使の羽根。 こちらを振り返ったその天使の顔は、この世の者とは思えないほど美しく、思わず男の颯人すらも見惚れてしまっていた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加