第1章 人間界~逢澤颯人~

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「……お、ぬし」 「…………。」 「馬鹿にするのも大概にせんか!!わしのこれは本物なのだ!! ペンギンがトレードマークの激安店にある紛い物と一緒にするでない!!」 「……あー、悪かった。ドンキじゃなくてAm○zonな」 「うむうむ。そーなのだ! 今ならプライム会員だとお得に買えーーって、をいコラ。 人の話を聞かんかい。本物だと言っとるであろーが」 下からむんずと颯人の胸ぐらを掴み、笑顔で額に青筋を浮かべる自称悪魔。 『人の話』ではなく『悪魔の話』だろ、というツッコミは無かったこととする。 しかしドンキだろうがAm○zonだろうが、これらを偽者と判別するにはそう時間はかからない。 猫耳と尻尾はともかく、いくらなんでも羽根までは誤魔化せないに違いないのだ。 「じゃあそれが本物だってんなら、飛べるんだよな?」 「フッ、当然であろう?腰を抜かすでないぞ!」 もはやどうでもよくなってきた颯人がそう問えば、子供は当然とばかりに胸を反らせた。 やがてバサバサと大きな羽根が動き出し、フワリと子供の身体が上昇する。 ベランダの床から1メートルほど離れたところで、子供は得意げにクルリと舞ってみせた。 オレンジの景色の中で、綺麗に黒が微笑む。 ……まさか、本当に飛ぶとは思っていなかった。 半ば夢心地で眺める颯人の目の前で、子供は満足げに悪魔らしい高笑いをあげた。 「はーっはっはっ!!驚いたであろう?わしは本物の悪魔なのだ! この羽根も、耳も、尻尾も! 紛い物ではない!! わかったらおとなしくーー」 「うるっっさいわよ!!!静かにして!!!」 怒声と共に光の速さで駆け抜ける黒い物体。 ゴイン、という鈍い音と共に、子供悪魔の後頭部にフライパンが直撃した。 ぐらりと揺れた小さな身体は、そのまま颯人目掛けて落下し…… 身の危険から、咄嗟に室内に避けた颯人の前で、ベシャリとベランダの床へと突っ伏した。 向かいのオバチャンが不機嫌そうに窓を閉める音がして、静寂。 ……オレンジの夕陽の中で、気絶している自称悪魔と、それを見下ろす大学生。 ……『波乱万丈』。 本日何度目かのこの言葉が、逢澤颯人の頭にくっきりと浮かんできたという。
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