第1章 人間界~逢澤颯人~

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突然バサリと黒い羽根を広げ、浮遊すると不適に微笑む悪魔。 ……望みを叶える。 魔法のランプじゃあるまいし、と思いつつも、興味を惹かれてしまう。 ただの変人悪魔かと思ったのだが、それなりに悪魔らしいことは出来るらしい。 「……例えば?」 「そうだのう……例えば、おぬしがレポートの課題に追われていて、どうにかしてほしいと言えば……」 「……言えば?」 フッと金色の目を細め、笑む悪魔に緊張が走る。 ……初めて見た悪魔らしい顔。 その幼い顔立ちからは想像できないような、どこか禍々しい空気。 そういえば、昔興味本意で読んだ書物に出てきた悪魔は、代償さえ払えば願いを叶えてやると言っていた気がする。 その代償は、悪魔の面倒をみるなどという生易しいものではない。 それにプラスで別のものを要求されるのは目に見えていた。 ……レポートくらいの願いであれば、『おぬしの小指の爪を一枚寄越せ』などと言われるのだろうか。 命ではないだけマシだが、それも勘弁していただきたい。 颯人が固唾を飲んで見守る中、悪魔はゆっくりと口を開く。 「……わしが代わりに書いてやる。ちょっとばかし時間はかかるが」 「……は?代償は?」 「代償?何を言っておるのだおぬしは。世話になるのだから必要なかろう。そもそも願いを叶えるのに代償だとか何だとか、そんな質面倒なことはやっておれん」 「…………つーか魔法でレポートが書けるもんなのか?」 「んなアホな。パソコンで打ち込むに決まっているであろう」 「…………。」 ……返ってきた答は、なんとも古典的なものだった。 これでは人間とさして変わらない。 万能な魔法のようなものを使えると思っていただけに、知らず颯人の口から溜め息が漏れてしまった。 それに対して目の前の小柄な悪魔は猫耳をピクリとさせ、颯人の回りをバサバサと飛び回る。 「その溜め息はなんなのだ?もしやガッカリさせてしまったかのう?」 「……悪魔っつーのは万能じゃねぇんだな。なんでも叶えてやるとか言ったわりに」 「できる限りの努力はするが、限度はあるのだ。叶えてやれるのは、人間ができる範囲のことだからのう」 「じゃー、さっさとオレの前から消えてくれ、不審者」 「不審者ではない!ラビだ!」
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