カルテ1ー2

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ボスは10歳上の尊敬する先輩医師だった。 都内に開業していて、それと同じ頃立ち上げた医療従事者の派遣業。 私は今そこでボスの言いなりになっている。 彼には返せない程の恩があるから仕方がない。 別に返せ、とは言われた事もないけど なんとなく嫌なんだ。 守ってもらってばっかりなのは嫌だった。 鞄の中から2万を抜き出し、スマホと一緒にポケットに突っ込んだ。 このロッカーはER専用の女子用で狭い上に、暗い。 扉を開けると、何故か陣内が待っているではないか。 「わ!なにやってんのよ」 「お金、いりませんって言いませんでしたっけ」 「え?」 いつものように、真面目腐っている顔……では、なくて…… 何て言うの? 私を見下すような なに、何だ、 ちょっと突っ掛かってきそうな。 「陣内、顔怖い」 対抗する訳ではなかったが、眉間にキッと力を入れて、ポケットに入れた2万を掴み、陣内ポケットへ移した。 「お釣いらないや」 ちょっとここ最近、調子が狂うのは 仕事のし過ぎだ。 休みがないにも程度ってもんがある。 「お腹すいた」 また、廊下を歩き始めて少ししてからさっきとは 違うリズムを刻む陣内のそれが私を追いかけてきた。 「有馬さん」 「なによ」 振り向かなかった。 陣内が怖いから、なんて口が裂けても言えないけど。 「っわぁ!」 肘を掴まれた、と思ったらあれよあれよと運び込まれたのは、男子トイレの個室。 「ちょっと!! なにすんのよ!陣内っっ!」 比較的新しい建物だからか、そんなにトイレ臭くはないがやっぱりここは、トイレだ。 「有馬さん、マジで更年期ですか? ちょっとイライラし過ぎ」 誰のせいだ!バカ者!! 「とりあえず出して!」 扉を塞いでしまっている陣内は狭い個室をさらに狭く感じさせるくらいに邪魔な図体(ガタイ)をしている。 朝っぱらからなんでこんな迷惑な事になってんのか 甚だ疑問だわ!
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