カルテ1ー2

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なんだかんだと忙しいのはいつもの事で。 今日の終業は見込めないな、と思ったのは 日付が変わる間際のホットラインが来た時だった。 仕方がない。 肉はまたにしよう。 取り出したスマホでボスに連絡をする。 残念極まりなかった。 肉が食いたくて食いたくて にく、肉が、肉が食べたかったんだ!! 「有馬さん、もうあがってください」 「は?」 救急入口に行こうとした私を呼び止めたのは陣内。 私の心の叫びが聞こえたのか? 「事故でしょ、誰が診るの?」 「オレと彼女で」 陣内の親指が向いた先は救命2年目の今本(イマモト)。 実家が総合病院の3代目らしい。 「有馬さん、先週ずっと帰れなかったでしょ? だから今週は帰ってください」 「有馬先生、交代します」 「続けて患者入ったらどうすんの。 今本一人で診られる?」 私は陣内ではなく、キラキラと笑う今本に尋ねた。 「主任もいますし、王(ワン)先生もいますから 大丈夫です」 「…………。」 確かに そう言われればそうだ。 「わかった、じゃあ、お言葉に甘えて」 笑いたくもないのに作った笑顔を見せてヒラヒラと手を振った。 何となくしっくりこない気持ちを ポケットに突っ込んだラインに乗せる事にした。 「おつかれさまー」 「お疲れ様でした、有馬さん」 「お疲れ様でした、先生」 ……なんで陣内は私を"さん"で呼ぶんだろうか。 なんで、帰れるのにジメっとするんだろうか。 幸い、ボスに送信したラインには既読マークは付いていなくて "今から帰れる事になりました、肉が食いたい" 再度返信。 すると、既読マークが付いてこっちもすぐに返事が来た。 "裏にいる" ……居たのか。 ぎゅう、と心臓の奥が詰まった。 そうだボスってこんな男だった。 肉を、とにかく肉を食わせてもらおう。 私は足早にロッカーに向かい、慌てふためいていると見紛うくらいの勢いでボスの車へ向かう。 肉を喰らえば何もかも、無問題!と思いながら。
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