カルテ1ー2

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私と出会った頃は既に2度目の結婚をしていて 子供が2人いた。 その前の奥さんとの間にも、子供がいる。 目の前で私の為に肉を焼いてはいるものの それは、飼い犬に手を噛まれないようにする餌付けであって 複雑な感情ではない。 だいたい、こんなドライな男は…… 「ほら、タン」 長いタンが私の皿に入れられた。 ほぼ、軽く炙っただけの絶妙な焼き加減。 やっぱり肉はレアじゃないと。 「陣内が、どうしても肉を食わせてやってくれって」 「は?」 せっかく、美味しく戴こうとマキマキしていたタンが口の中に入れた瞬間にベロンと。 いや、正にタン。 「長いベロだな、望絵」 ふふ、と笑ったボス。 口からベロンと垂れたタンをどうすることも出来ずにいると 「有馬さん、肉、肉、煩いんです、とさ」 「ひんにゃいがれふか?」 少しずつ口の中に収まっていく長いタンのせいで 何を言っているか分からない。 だけど、ボスは頷いた。 ジュウ、と油が落ちる音がして 次の肉がひっくり返される。 「陣内と、なんかあったか」 「ひゃ?」 やっと50センチくらいのタンを口の中にしまった時 ボスが笑いながらそう言った。 別に 別に何も。 なんかもくそも無かったです。 直ぐに答えれば良かったけど、口の中のものを飲み込まない事にはうまく伝わらない。 「別にな」 「失敗した」 私のセリフを遮ったボスのセリフは ちょっと深くて 多少、困惑気味であります。
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