カルテ1ー2

4/19

1217人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
「もう早く帰りなさいよ、また明日ね」 自分が呼んだ癖に、なんて勝手なんだろうか。 溜め息と一緒に吐き出したそれを言い終わらないうちにヒラヒラと振った手。 突然、ガシ、っと音がするほど掴まれた。 ちょっ前にもおんなじよーな事が起こった気がする。 玄関のライトは自動で人影を感知して灯り、30秒くらい経つと消えるように設定してあって ちょうど今、パチリと消える。 「わっ!」 そして、また、人影を感知したライトは、自動で灯るんだ。 「ち、近っ!?!」 思いの外近い距離だった。 ライトが消えたたったの2、3秒の間に 陣内と私の距離はだいたい10センチにまで縮まっていて コイツの奇行にはほんとにビックリを隠せない。 「しましょうか」 「は?」 「オレでよければ、しますけど」 ギュウ、と握られた手首がピリピリするのは 陣内の握力が強くて、血流が滞っているからだと思われる。 「な、なにをするの 掃除ならじぶ」 「セックス」 陣内の眼鏡に映る自分が、あたふたと瞬きをする様子がものすごく恥ずかしくなって また、心拍がズレ始める。 「は?」 いや、おまえ、家庭のある身だろうが。 男にガッカリしたのはこの時だけではないけれど イライラとムカツキが一緒にモクモク湧き出した。 焦ってドキる心臓の事はこの際横に投げ置いておく。 私はもう、38だ。 バカにされたら黙ってなんていられない。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1217人が本棚に入れています
本棚に追加