カルテ1ー2

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「おはようございます、有馬さん これ、ご所望のLEDライト」 黄色のビニールの中を覗くと、入っていたのは全部で6つ。 「全部替えて、残りはまた切れた時に使ってください」 表情を崩さないようにしているのか? それとも面白みのないヤツなのか? 陣内はいつもいつも、ほぼ真面目腐った顔をしている。 「あ、ありがと、いくらだった?」 「いらないです」 「そんな訳にはいかないわよ、ちゃんと払う これ、高いでしょ? LEDだし、大玉だし」 あ、財布、ロッカーだ。 「ちゃんと請求してよ」 夕べの事なんて無かったかのように いつものシャアシャア具合いは見事なモンだ。 「あー、じゃあ、食わせてください」 また出たよ。 何をだよ、何を貴様に食わせるんだ、わたしは。 なんだかムカついて そんな訳の分からないものを食わせるくらいだったら、とロッカーへ向かう事にした。 この電球っていくらくらいすんのかな。 高いのかな。 LEDって、高いんだよね。 「有馬さん、無視しないでくださいよ」 背中にかかった声にゆっくりと振り向いた。 「ロッカー行って財布取ってくるから 待ってて」 そっちがその気なら 私はあんたのペースには嵌まらない。 もうね、厄介事は御免だからね。 陣内の真面目腐った顔は、驚く程整っている。 そりゃ、妻もいれば、愛人の一人や二人くらいいてもおかしくはない。 医者って肩書きの上に、顔デコまで備わってて あんた、人生ラッキーだろうよ。 羨ましすぎるっつの。 無機質な床がキュキュ、と音を立てる。 私の歩き方に力が入った所為か。 けっ。 「受入れ要請です!」 ロッカーに向かいかけた足をクルリと反転させる。 壁にかかった時計を見て時間を確認した。 7時48分。 まだ、1日は長い。 「陣内、後で精算して」 周りがバタバタと慌ただしくなる。 拡散されるホットラインからの情報に出来る限りの準備をする為だ。 「なに、飛び降り??」 「オペ室のがいーな」 「えーと、じゃあ有馬先生と陣内先生にお願いしてもいい?」 「分かりました」 「あ、麻酔に連絡して、三原が居たら適任」 「確認してます!」 「行こう陣内」 「了解」 それぞれに役割があって、だけど誰も滞る事なく動く。 忙しい日々だけど、私は毎日充実している。 だから、このバランスを壊したくはないんだ。
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