カルテ1ー2

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自宅マンションの4階から転落したのは中学3年生の女児。 世の中何らかの原因で高いところから飛び降りてしまう若い世代が後を絶たない。 聴診して直ぐ陣内が呟いた。 「肺…… 損傷……いや、挫傷だな」 「待った」 「ああ、そうですね」 4階という高さにちょっと疑問を覚えていた。 勿論、打ち所や、転落状況と環境によって先が別れてしまうのは確かだ。 だけど、この子は比較的柔らかな中庭の土の上に転落。 私と陣内の見解が一致したらしい。 エコーを見ながら確定する。 「産婦人科連絡して!」 「親御さんにCTとエックス線の許可もらってきて。 妊娠……そうだな」 「12週くらいよ」 考えた陣内の答えが出るより早く私が言う。 ザワザワと忙しない空間でピタリと視線が合わさった。 「えらく正確ですね」 「あんたこそ何で正確だってわかんのよ」 「医者ですから、一応」 私だって医者よ、バカ者。 「はい、行くよ」 「了解」 バカバカしい。 こいつのペースには嵌まらないぞ。 ぎゅ、と掌を握った。 運が良かったのか悪かったのか。 片肺挫傷と多発骨折。 内蔵損傷が少ない。 奇跡だわ。 「良かった」 「でも、かなり折れてますね」 「整形は?まだよね? 産科に異常がなければ、……なければ、左鎖骨からいこう。PaO2は?」 「低下ありません」 「肺は問題なさそうね」 1日の幕開けは毎日違う。 また長い1日が始まる。
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