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「何もありませんよ」
エンペラーブリアンを箸で摘み上げながら
その向こうにボスを見る。
表面だけに焼き目がついていて、中は真っ赤なままのエンペラーブリアン。
この肉は、死ぬほど高い。
「戴きます」
私は遠慮なくエンペラーブリアンを口の中に入れた。
途端に甘味と脂が程よく拡がり、旨みが充満する。
表面の熱はすぐに中の冷たさと中和される。
この店は松阪牛を一頭買いするらしい。
芸能人や著名人も訪れるような店で私なんかがこうしてこんな事ができるのは、ボスのお陰だ。
「旨いか」
「はい、高級な肉が大好きですから」
「肉か」
「はい、私が好きなのは肉です」
肉は私を裏切らない。
「ああ、美味しい」
烏龍茶じゃなかったら、と思ったけど
アルコールじゃなくてよかったと思った。
酔っ払いになったら、また、ボスの世話にるかもしれないからだ。
ボスとただの飼い犬の関係になったのは、4年前だ。
それまでは、ボスは私を本当に飼っていた。
26で出会って8年。
私は38だけど人生で知ってる男は
ボスだけだ。
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