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腹の底がひっくり返るかと思った。
ボスにも、そうだけど
この、目の前の死に損ないにも。
「望絵、元気そうだ、な」
肺活量は極端に落ち
短い言葉を紡ぐのも困難で
自分での運動は不可。
鼻から入る酸素がなければ、……即アウト。
なんだ、チョロいじゃん。
「冥、土の土産、だな」
静かにしていないと聞き取れないくらいの掠れて途切れた音。
放っておいても長くはない。
「いい、女に、なった、じゃ、ないか」
痩せた首筋に浮かんだ皺の数々
隈の滲んだ目の下も
色の悪い唇も
どこもかしかこも病人そのものだ。
「……なに、しに、きた、望絵」
真っ直ぐにこっちを見る目は落ち窪み
まるで、生気を吸い取られたように皮が弛(タル)む。
こんな豪華な部屋にミイラなんて似合わない。
「嘲笑いに」
シン、と空気の張った室内。
シュウシュウと絶えず酸素を送るその機械の音だけが鼓膜に届いた。
「ザマァミロ」
病人に対して言うことじゃ、ない?
バカバカしい。
言われても仕方がない事をしでかしてきたんだ。
「相、変わら、ず、可愛い、やつだな、望絵は」
長いセリフは致命的だ。
はぁ、はぁ、と息を整える無様な姿が笑える。
「やっ、ぱり、あの時、ヤッとけば、よかっ、た、か」
「社長、もう、この辺で……
有馬先生、今日はありがとうこざ」
「ブレイド」
ブレイドさんの制止を逆に止めた白石。
骨に張り付いた皮が、ひぃひぃと喉を鳴らす。
「望絵、私は、もうじ、き、死ぬ。
悪かっ、たな、望絵」
は?
はい?
「何が?ねぇ、何が悪かったのよ
あんたの悪いってなに?
あんたなんか悪い事しかしてないじゃない!
何が悪かったってのよ!」
ベッドの傍に近づいて望み通り
望み通り、白石を見下ろした。
望み通りじゃん。
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