カルテ3ー2

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「悪かったなんて思ってもない癖に んなこと言わないでよ。 胸糞悪い」 「変わ、らない、な」 「クソジジイ」 嵌められた事が今になって最大級にムカついてきた。 「譲る、んじゃ、なかっ、たな」 ため息を吐いたように言うとすぐ ブレイドさんが経鼻カニューレを取り去り酸素マスクを被せた。 白石がベッドへ沈んでいく。 これからはどんどん底に行くだけだ。 うす緑色のマスクの内側が白く曇り続ける。 「ボスはあんたとは違う」 「そう、か」 「アンタは私の手を罪で染め上げたじゃない。 ボスはその色を今でも抜こうとしてる。 あんたとは違う」 瞼がだんだんと閉じて、薄く薄く狭まったそこが もう、何も見えていない事に気付いた。 脳に転移したモノが視神経に悪さをして視力を奪う事は基本だ。 そういえば、ボスが言ってたな、と思い出した。 「しあわ、せ、そう、でな、に、よりだ……」 見えないのに、何が幸せそうなんだ。 あんたに何がわかるっての。 私のどこを見て、幸せだって言ってんの。 殴ってやろうと詰め寄ったけど屈強な小間使いブレイドさんに勿論止められる。 「ちゃんと見なさいよ! わたしの、私どこが幸せそうなのか ちゃんと見て言え! このオオバカ者!!」 眠ってしまってた白石に反応はなかった。 ただそれが永遠の眠りでないのは彼の生命力を映し出したモニターが告げている。 「有馬先生……」 「離して、ブレイドさんっ」 「有馬先生」 「離してよっ!殴るよっ」 「構いません、それで気が済むなら」 白石が見えない事に気付いたからか 流れ落ちる涙が止まらない。
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