カルテ3ー2

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「じゃあね、ブレイドさん」 「有馬先生、本当に有難う御座いました」 デカイ図体をした如何にも普通の筋ではなさそうなスーツの男が ペラペラの女に頭を下げる様子はいったい何事なんだ、と周りの注目を集めてならない。 「わっ!」 ぎゅ、と右手を握られた。 ブレイドさんの10本の指が私の手首から指先までをスッポリと包んだ。 「ブレイドさん、指、違和感ない?」 その手を見て思い出した。 私の闇医者としての最後の年くらいにブレイドさんの指を繋げた事を。 切断面はスッキリ綺麗で 胸元から出された白いハンカチに包まれた右手第2指。 大事な大事な人差し指だった。 経緯は知らないけど、白石も一緒だった。 "望絵、繋げてやれ" ただ、そう言われて、やらなきゃ、と思った。 「全くございません、以前よりも調子がいいくらいです」 「よかった」 「有馬先生」 「な、な、なに、今度はなに!」 どうして男は、急に近寄ってきたりするんだ! さっきよりも随分近い距離で ブレイドさんが話さなければならなかったのは きっと、どこで誰が見ているか分からないからなんだ。 「社長は、ずっと貴女の事を気にかけておいででした。 貴女にずっと惹かれていたと、伝えてくれと 頼まれていました」 「ブレイドさん、それは聞か」 「ですから社長の事をもう、赦していただけませんか」 聞かなかったことにする、と言わせないように 頭を深く、さらに深く下げながらブレイドさんはそう言った。 右手が彼の握力の強さを垣間見る。 ああ、指がちゃんと機能してるんだ、とそんな事を思っていた。 どの指が欠けていても握りしめる力というのは元のそれの何分の1かに減少してしまうからだ。 まぁブレイドさんぐらい強かったら例外なのかもしれないけど。
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