カルテ3ー2

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正面ゲートを出るまで、90度のお辞儀で見送られて 何だかちょっとした恥ずかしさを覚えた。 ブレイドさんは昔からホントに律儀な人だ。 でも、白石の事は赦せないと思う。 ごめんね。ブレイドさん。 もう関わることも無いだろうし何も言わないけど。 ロータリーになっているそこで凸凹ひとつないコンクリートを辿ると見慣れた車が停まっていた。 大嘘吐きの車だ。 策士香川め。 ヤツは昔っからそうだ。 人の心理を手に取るように操るのが上手かった。 わざわざ車から下りて、ご丁寧に私の進行方向に立ち、邪魔をする。 「望絵」 軽く声を掛けられた。 ナンパかっつーの。マジで。 「ボスとは暫く疎遠になります」 「つれないな」 「……」 無視してボスをスルリとかわしそこを擦り抜けた。 「肉、喰わせてやるよ」 肉でつられると思うなよ。 「ご褒美肉だ」 二の腕を掴まれた。 「これは、命令」 「は?」 振り向いて、間近にボスの顔がある事にも驚いたけど、ボスが肉を食うこと、を強制するなんて…… 「体力つけろ」 「いらないしっ」 引っ張っていかれる身体に抵抗を加えてみる。 みなさん!見てみぬフリしないでくださーい! これは明らかに拉致や連行の類いですがー! 道行く人々が興味津々に私たちの、いや、私の無駄な抵抗を見やりながら通りすぎていく。 助手席のドアがパカッと開きポイ、とそこへ突き入れられる。 「望絵、いいから付き合え」 仕方なしにシートベルトに手をかけ、身体をシートに密着させる。 少ししてから隣に乗り込んだボスは何も言わずに車を走らせた。 時間はまだ、夜が始まったばかりで こんな時間に下界に居ることに少しだけ違和感を、感じていた。
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