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【12年前】
ERでは沢山の症例が毎日山のように舞い込んでくる。
そりゃみんな、やりたがらないわけだ。
家に帰る時間がホントに無いんだから。
中でも香川はその代表的な医師だった。
素性も何も知らないけど、私のセンター試験の持ち点では入れなかった国立大学出身のドクターというだけで後はやけに毎日元気で相変わらずウザい。
まぁ、腕がいいのは認めるが、多少とも雑。
私の方が……と、考えてこれ以上はやめておく。
研修を抜けたら収まる職場は決まっていた。
私はずっと、一生そこでやっていくんだから。
周りの研修医は大学に残るもの、それぞれに散らばるもの、色々情報を交換し合っている。
私には不必要な事だ。
「おい、有馬」
「はい」
また、香川だ。
「ちょっといいか」
「……はい」
香川が最近私の周りを彷徨(ウロツ)くことが多くなったのは、私の指導医になりやがったからだ。
以前の指導医が"家庭の事情"とやらで九州の方へ行くことになったからだった。
なんだよそれ。
最後まで面倒見て行けよ、おい。
喉まで出かかったセリフだった。
「お前これさ、どうして整形呼ばなかったの?」
「は?」
香川がパソコンの画面をこっちに向ける。
夕べの救急外来での処置だ。
香川はこうやって私の外来処置に100%、いや250%は文句をつける。
「整形ドクター、夜勤にいなかったからですが、なにか」
「居なかったからね?
じゃあ、次の日に回す事だってできただろ」
香川の顔が怒りモードにスイッチオーン。
あーぁ、と小さく溜め息を吐き出した。
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