カルテ4

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まだまだ若い鎖骨は写真にもはっきり写らないくらいの骨折。 これぐらいの激しいものでなければ少しだけ位置を戻してあげる。 後は自然に"骨が元に戻ろうとする力"が働くから 何も心配はいらない。 だから、整形のセンセーなんて必要ないでしょう? 医局の空気は重々しくて 傍にいた研修医がソロリと部屋を出ていく。 「特に、何も……」 熱さに更に熱さを注いでも冷めない。 だから こっちが熱くなったら、負けだ。 香川の彫りの深い顔面はナースの間じゃちょっとした噂。 頭もいいし、高級な土地に開業を果たすお医者さん。 見てくれも悪くなければ そりゃ、周りは喜ぶだろう。 腕もよくて、毎日熱くて……かなりウザい。 睨まれても怖くなんかない。 「お前の腕は研修医なんかじゃない」 何が言いたいんだ。 「もう熟練通り越してるって言ってんだけど 中堅の医師でも通用する」 「光栄です」 睨んでも、睨んでも 例えその視線が本当に私を貫いたとしても 絶対に言っちゃいけない。 私のしでかしている事は 私がしでかしてきた事は 世の中では"法に触れる"ことばかりなんだ。 「いつからだ」 「はい?」 「いつから、人を切ってる?」 今までこんな風に詮索するヤツはいなかった。 「は?」 今まで私にあえて関わろうとするヤツはいなかった。 放っておいてくれればいいのに。 めんどくさ。 しかも、"人を切ってる"って。 なに。 ズバリ、言い当てられても 動揺なんてしない。
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