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「帰っていいぞ、有馬」
「は?」
言うだけ言って追い詰めといて
なんだよ、それ。
「お前、全然帰ってないだろ」
ほんとに、香川は余計なところばっかり気付く。
「そんな事はありませんが」
「いいから、帰れ。
今日は1日休んで、明日の朝から出てこい
まだ、ここでの研修は3ヶ月残ってるだろ?」
怒りモードだったかと思えば
もうそんな事はどうでもいいかのように私を追い払う。
「……お疲れ様でした」
「あー、お疲れ」
あまり楯突いて研修認定を貰えない事態になっても困る。
研修医なんてのはお手伝いみたいなもんだからだ。
だから、私みたいなのは異物扱いされる。
普通は何も出来ないし、やらせてなんて貰えない。
とにかく私は、沢山の事を短期間で自分のものにしなきゃならなかった。
それは、今置かれている環境に対応するためだ。
一応、"家"というところに向かうのは久しぶりで
病院から出るのは近くのコンビニに行くくらいだったこの何週間かを振り返る。
歩いていると、私の横を滑ってくる黒塗りの車。
少しだけ前で停まり、後部座席の扉が開く。
「お迎えにあがりました」
いつもの事だ。
そしてそこから降りてきて頭を下げたのは私を常に監視している男。
ふざけた名前の、頑丈な男。
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