カルテ4

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「頭だけはクソミソ良かったからなぁ、わたし」 だいたいなんで医学部なんて受験したんだ。 「……」 じゃぶん、と頭まで沈めると、またその分と引き換えのお湯が流れていく。 勿体ない、と思いつつも粗末にしている。 文句を言いながらもこの生活に馴染んでしまった自分がいる。 医学部を受験したのは出産直後に受けたセンター模試の結果がアホほど良かったからだ。 あまりに良すぎて、かかっていた産科のドクターが "医者になれるね"なんてそそのかしたから。 「くっそぅ」 それだけじゃ、ない、けど。 まぁ、こうなってしまったのは自分の所為だ。 そして、こうなってしまったのも。 「望絵」 風呂から上がると部屋にいたのは白石だった。 こんなのは、いつもの事だ。 「今日は休みなんだって?」 バスタオル1枚の私に手招きしながらなんとも白々しく尋ねてくる。 「急遽休みにされました」 「どうして?」 私に与えられたのは6畳一間に風呂、トイレ、ミニキッチン付きの贅沢な部屋だ。 ベッドに座った白石からはアルコールの匂いがした。 好物はバーボンロック。 特にマッカランの本数限定品を好んで飲む。 次に水割り。 純氷はグラスいっぱい、ウィスキー1に対して天然水1,5。 標準よりも少しだけ濃いめが好き。 「さぁ、私の事が気に入らないんじゃないですか」 白石の前を通り過ぎてチェストから下着と部屋着を引っ張り出す。 ハラリ、とバスタオルが落ちたのはいつの間にか私の後ろに立った白石が人差し指でタオルを引っ掻けたからだ。
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