カルテ4

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「なぁ、望絵……」 白石が言いたいことは分かっていた。 この男は、私をどうにでも出来る。 「どうして俺に靡かないんだ」 靡くわけがない。 なにを惚けた事を聞くんだろう。 「白石社長、退いていただかないと着替えられません」 きっぱりと言い切ると、必ず鼻で笑う。 やっぱり酷いアルコール臭だ。 きっと、夕べからずっと飲んでたんだと容易に想像できる。 「飲みすぎと吸いすぎはよくないですよ、社長」 1歩下がった白石。 いつもなら茶番はここで終わる筈なのに。 「ひ、っ!」 酔っ払いにも、程がある。 「し、白石しゃちょ、う!」 裸に抱きつかれてそりゃもう、気持ち悪いったらない。 こんなに飲んで、役になんてタタナイっつの。 「望絵」 耳につく優しい音は良くない響きの前触れだ。 「今度はちゃんと、孕ませてやろうか」 頭から冷や水をかけられた。 その直後、ブクブクと湧いてきたのは煮え滾って瞬時に蒸発するような怒り。 身体を這い出した掌が、ムシのようで 絶大に吐き気を誘う。 「い、や、だ、っつってんの!」 「ぐえっ」 頭を振り子のようにして、白石の顔面に打ち付けた。 有り難い事に後頭部が鼻頭にヒットする。 顔面の中でもちょっとした急所だ。 アルコールの所為もあってか、ヨロリと解けた身体を蹴っ飛ばした。 「いい加減にしろよ、このバカモノがっ!」 つつ、と流れてきた鼻血を見て口の中で呟いた。 ザマァミロ。 痛みに歪ませた顔を覆う白石をそのままに 私はまた風呂場に飛び込んだ。
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