カルテ4

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着替えて部屋に出た時にはもう白石はいなかった。 ドアの取っ手に付着した血の痕を見て肩から力が抜ける。 ウエットティッシュと除菌アルコールでそこを綺麗に拭っていると、ノックの音。 「お食事のご用意できました」 そういえば。 朝から何も食べていない。 私が帰ると、必ずこうして食事を出してくれる。 白石はハウスキーパーを常駐させていた。 最近はコンビニの弁当ばっかりで まともなご飯、食べてないや。 「直ぐに行きます」 そう返事をして、綺麗になった取っ手を見た。 ……悔しいけど恵まれている環境に腹が立つ。 ただ、一つを覗けば。 そうだ。 これはアレの見返りなんだ。 廊下に出て、まだ騒がしいリビングの前を通り過ぎ キッチンへ入る。 「あー、有馬、いいところで会った」 「……」 「なんだ、その嫌そうな顔は」 シワシワの顔をクシャ、と歪ませた初老の男。 「別に……ご無沙汰しています、先生」 「一眠りしたら手伝ってくれるか」 「わかりました。 夕方には伺います」 美味しそうに見えた料理が、色と味を無くす。 目の前に座る男が、焼き魚を綺麗に骨から剥がしていく。 もう年老いてきたが、彼の一刀目のメスが通った痕には、血が流れない。 そんな、バカな、と思うだろうが。 彼は、白石の持つ医療施設の院長で 私に、"目で見て覚えろ"と言った張本人。 かくいう彼は、無免許医 ほら、私のいるところは犯罪の塊だ 。
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