カルテ4

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仮眠を暫く果たした後、陽の沈む様子を見ながら 私はまたブレイドさんと一緒に車に揺られていた。 白石の本宅から車で30分。 ガヤガヤと騒がしい街。 あれやこれやと何かが起きても全く問題ないようなここも、6年前とはガラリと違う。 西武線沿いに少しだけ奥まった路地を入る。 新宿白石醫院と看板の出たそこに停まった車は やっぱりブレイドさんが先に降りて私を促してくれた。 「明日はここから病院へ行きます」 「分かりました、では出勤前にお迎えに参ります」 深々と頭を下げて、ふと。 「社長がまた失礼な事をされたようで……大丈夫でしたか?有馬先生」 「いつもの事です。 ああ、飲酒と喫煙のダラダラ習慣は控えた方がいいと、再度伝えてください。 では、いってきます」 私も深々と頭を下げて、院内へ身体を滑らせた。 シンとした受付を潜り抜けて奥の部屋へ移動する。 カチャカチャと器具の擦れる音がした。 またか。 と、思った。 「先生……今日はなんですか」 ちょうど患者の股の間を覗き込んで鉗子で引っ張り出した時だった。 「ああ、有馬、ちょっと待て、後10分で済むから」 ぶらん、とぶら下がったそれに もう何も感じないなんて、私も随分と染まったもんだ。 10分か。 その時間が素晴らしいと分かっていても 何も称賛するべきものではない。 この処置は、本当に仕方なくてどうしようもなくて施されるものじゃないからだ。 また、奥の部屋へ入り、荷物を置く。 結局ゆっくり休める時間なんてないんだ。 新宿白石醫院は、白石出資100%の名ばかりの病院で、その実際は白石傘下で起こった厄介ごとの処理をする場所だ。 私が初めて立ち合ったのは、今と同じく掻爬術。 そして、その初めてからひと月後に同じことをやらされる羽目になる。 "しっかり見てろよ、医学生" 先生がそんな事を言った事がまさかこんなことに繋がるなんて思ってもみなかった。
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