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はぁ、とタメ息をついたところで先生が入ってきた。
もう10分経ったのかと思わず腕の時計を見たくらい。
「有馬、肝臓出せるか」
「……」
少し枯れた声。いつでも落ち着きまくっている声はいつからか私を安心させるものに変わった。
今日は植付けだ。
「まぁ、こっちにこい」
何やら仰々しい封筒に入ったCT画像は
ものの見事に劇症だ。
「有馬、所見」
枯れた声が私に飛んできた。
「肝萎縮が進んでいます、末梢側の肝細胞壊死
それに……浮腫、胆嚢漿膜下浮腫」
「術手技」
先生はいつもこうして私に教えてきた。
だから何でもを知っておかなければならない。
「下大静脈を残して自己肝全摘、ドナーからの同所性全肝移植です」
「そうだ、基本的な肝移植だ」
「門脈と肝動脈、肝静脈の再建、胆管と腸の吻合」
「お前がやれ」
出た。
これで、明日の朝までは確実にオペ決定だ。
「先生は?」
「付き添ってやる。
早く準備しろ、朝までに終わらないぞ」
皺の深く刻まれた顔を弛め、私を簡単に促す。
肝臓にあらず、移植なんてのはでっかい病院でだって大変なのに、こんなちっぽけな古びた医院で大それた事をする。
勿論、これも立派な違法。
臓器提供のネットワークになんて乗っ取ってはいない。
新宿白石醫院は、こういうところだ。
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