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慌てて口を塞いだ。
は?なに。なに、笑っちゃってんの。
きっと聞こえていた筈なのに
ノーリアクションで去っていく香川。
……まあ、そこ、突っ込まれても困るだけだし……
コンビニの袋が踊っていた。
香川の体側で揺れるそれを見て"失敗した"と思ったのはどうしてだろう。
香川に、和やかな気持ちにさせられた、と
いう事が癪に障るんだ。
気を付けなきゃ。
香川の後を着いていく事もなんとなくムカつくいて
ワザワザ寄りたくもない自販へと足を向ける。
無駄な事なんてしたくないのに……
やっぱり香川は苦手だ。
自分のペースを乱されるからだ。
乱すほどこっちに入ってこようとする。
医局へ入った時にその香川の姿は見えなかった。
私の二つ右隣の机にコンビニの袋が置き去りにされている。
ペットボトルを取り出し、馴染んだピンクの蓋を開けてゴクゴクと喉を鳴らすと後ろから怒鳴り声が飛んできた。
「なに余裕ぶっこいてんだ、有馬!早く手伝え!!」
は?
私、今来たとこなんですが?
香川の顔は当然真剣怒りモード。
「多発事故だ、来い!」
処置室は混雑していた。
ざっと見て20人はいる。
「なに、これ」
「すぐ側の工事現場にトラックが突っ込んだんだ。
もう重傷患者が先に何人かオペに入ってる
ほら、お前は軽傷扱え」
ポイ、と放り投げられたディスポをキャッチして直ぐ様手にはめて床に座っていた作業着の集団に声を掛けた。
ちょうど鉄筋を吊り下げようとしていた矢先にコンクリートを運ぶトラックが突っ込んできたそうだ。
3人が落下した鉄筋の下敷きになったとのこと。
トリアージを済ませて処置をしていく。
患者が増える事はなかったが傷の縫合が必要な患者が二人。
……ドクターいないし。
縫っちゃうからね。
別に得意な訳ではないが、先生からもいつも誉められているのは"縫いモノ"だった。
「お前は組織を縫わせたら俺より上手い」
そう言いながら枯れた声で笑う先生は無免許医だけど。
これくらいの傷ならあっという間に縫合できる。
また、怒られるかもしれないけど今は緊急時だ。
文句言われてもいーや。
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