カルテ4

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軽傷者の処置を済ませて、ナースに引き渡す。 「有馬先生!」 看護師長と、後期研修医があたふたと私を呼んだ。 足元には呻く男性作業員の姿。 「なにやってるんですか、処置は?!」 慌てて駆け寄り様子を診る。 聴診で左呼吸音が雑音だらけだ。 「肋骨、折れてます……フレイルチェストだなこれ それと肺挫傷 口腔内出血、気胸だ! オペ室連絡して!」 振り向いた私の腕をガシっと掴んだ師長。 「有馬先生、香川先生から伝言。 ドレナージして暫く持ちこたえろって」 「は?」 「先輩っ!」 師長の隣にいるのは必須研修を終えて救命に自ら志願した私よりもまっとうな"医者"だ。 だけど、両手を前にして首を大きく振った先輩。 「ま、まだそれはやったことが……!」 「香川先生が、有馬先生にやらせろ、って」 あのオヤジ、ついにイカれたか。 私に出過ぎた真似はするなって言ったのは どこのドイツだバカ者が。 その間も目の前で、苦しい苦しい、と途切れる息を漏らす作業員。 そりゃ苦しい筈だ。 骨折のせいでだいぶ圧迫されてんだから。 あのおっさん、マジでしばいてやる。 「師長、チューブ20F、ケリーも 先輩、挿管して」 「いや、まだ気管は入れたこと」 「もういいです」 ア然だ。 日々何をやってんだコイツは。 日本の医療課程は考え直した方がいいんじゃないか。 「こっち手伝って下さい!身体ベッドに上げます!」 私はディスポを交換しながら周囲に呼び掛けていた。
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