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「有馬先生!サット90切ってます!」
作業員は突っ込んだトラックに軽く吹っ飛ばされたのだそう。
ついさっきまではちょっと痛いくらいだったという。
「低い。手早く済ませます!レントゲン用意してください!」
「服切りますよー」
「モニター付けてー」
「あー、タキリ(頻脈)まくりだ、針刺します。
18ゲージください」
ナースから受け取った留置針(リュウチシン)を左胸にブスリと突き刺しながら、レントゲンを撮る準備をしてもらう。
エアが抜ける音がして、周りがはぁ、と息を同時に吐いた。
「トロッカーください。
あと、先輩、気道偏位と頸静脈みてください」
もうこうなったら先輩もクソもない。
私は使えるもんはなんでも使う派だ。
ウーウーと唸っていた作業員さんの顔色が少し落ち着きサットが94に上がってきた。
「大丈夫ですか?
歯医者で麻酔されて気分悪くなったことあります?」
「……いえ、ありません。
ちょっと楽になりました、けど、すっげ痛い……」
そりゃそうだ。
肋骨、多分いっぱい折れてますから、とは言わなかったけど。
少しして出来上がった写真を確認する。
「右も左もありますね」
「左が酷いな……。
よし、第5にします。
輸液どんどん全開してください、後血ガスお願いします」
もう、きっと誰も私の事を研修医だなんて思ってないと思うけど……この場合致し方ない。
後で裁きは受けてやる。
畜生、香川のヤロウ。
ギリと奥歯を噛んだ勢いそのままに心臓を突き破らないようにトロッカーを入れて
「出血ありますね」
「うん、でもこれくらいならまぁ……
エコーください、他、見ます」
助かりそうだ、と一息吐き出した。
「有馬先生……凄すぎ……」
先輩が目を点にしていた。
こんなのは、慣れ。
と、ちょっとした度胸。
あんたも直に出来るようになるよ、とは言わなかったけど。
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