カルテ4

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朝イチの喧騒ガクガクが過ぎ去って 医局はエライ事になっていた。 「有馬先生、ほんっと凄かったんだから」 「○○先生なんて、……」 「試験穿刺であっという間にエア出したんだよ」 「ドレナージだってはっやい、速い」 「××先生より凄いかも」 「はい、お喋りしてないで仕事仕事!」 パンパン、と柏手のように手を打った師長が 噂を飛び交わせているナースたちを散らばらせる。 で、その私はある男の目の前で立たされていた。 ある男、なんて言い方をしなくても 香川なんだけど。 青い術着を来た色の黒い外科医。 なんかドラマに出てきそうなドクターだ。 「もう言い逃れできないぞ、有馬」 コイツは 卑怯だ。 「なんでヘッボイ筈のインターン紛いがあーんな事しちゃえる訳だか教えてもらおうか」 だからインターンって。 年配の先生やナースは死語を使う事が多い。 それに慣れてて楽だからだと思うけど。 だけど香川の場合、わざと、じゃないだろうか。 私よりもたった10個上。 もう"インターン"はとっくに廃止されてた筈だ。 研修医、と言いたくないんじゃないだろうか。 と、勘ぐってみたりする。 しかも、"インターン紛い"って言われたし。 「さて、有馬、お前の経緯を完結に述べてみろ」 あー、めんどくさ。 「ですから今まで置いてもらった現場で見様見真似でやりました。 以後気をつけ」 「気を付けなくていいから、経緯を教えろ」 は? 今、なんと? 見下ろした香川の顔は、してやったり笑いで 「お前は腕がいい」 「は?」 私の呆気に取られた態度を楽しんでいる。 「お前の腕が確かなのは前から分かってた。 ただ、それが何処で身に付いたもんなのか、知りたいだけだ」 「仰ってる意味がよく分かりませんが」 「すっとぼけなくてもいい」 どうして香川は、そんな事を聞きたいんだろうか。 ふと、不思議に思った。
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