カルテ3ー2

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なんでここにいるんだよ。 出かかったセリフはなんとか言わずに済んだ。 「香川先生」 「ご無沙汰しています」 なんか、茶番に付き合わされるのも嫌だし 早々に立ち去ろう。 「お疲れ様でしたー」 疲れた。 そういえばロクな飯を喰らってないような気がする。 だから倒れたりするんだ。 そうだ。 こういうのを現実逃避だと言うのかもしれないけど 立派なすり替え思考だ。 「望絵!」 「あー、ボス、どうしたんですか」 後ろから追いかけてきたボスに振り向きもせず 失礼極まりない態度をとる。 オペ室からER棟に向かうここを陣内以外の誰かと通るのは久しぶりな気がする。 「望絵、余計な事はいうなよ」 「余計な事?」 「警察が絡んでるんだ、変なところに障るんじゃない」 「事件まがいって事でしょ? 弾、見て分かりましたよ」 「望絵!」 肩を捕まれて、振り向かされる。 ボスの顔は怒り気味だ。 彼女から取り出した弾は日本の警察官用に造られた仕様だったからだ。 弾の表面に刻まれたライフルマークが銃器の特定に繋がる。 「何ですか」 私はまだ怒ってるんですよ、ボス。 「余計な事は口に出すな」 なによ。 ちっとも怖くないし。 「言いませんよ」 ちょっとだけ睨み合いをして ボスが声のトーンはそのままにおかしな事を言う。 「お前、大丈夫なのか」 「は?」 「貧血で倒れたんだって?」 ちっ。 陣内か。 「芝田主任から連絡がきた」 「あー……」 ちっ。 主任か……。 陣内だったら文句言えたのに。 だいたい貧血じゃないし。 あ、ちがう、違う、貧血だし。 うん。 「大丈夫ですから、ご心配なく」 掴まれた肩の手を振り払ってまた歩き出した。
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