カルテ3ー2

8/17

1024人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
電車を何度か乗り換える。 その都度眠ってしまって慌ただしく飛び出す事数回。 ここに来るのは久しぶりだった。 何故来たんだろう、と考えるけど思い付くのは "上から見下ろして笑ってやる"それだけだ。 見上げた建物は遥か上空に聳えている。 まだ、真新しいといっても過言ではない。 正面ゲートを潜ると圧迫感のないフロアがずぅっと向こうまで拡がっていた。 広いロビーは総合受付がどーんと構えていて 通行手形を貰わないと奥には行けない。 「ちょっとした軍事システムだね……」 「こんにちは、本日はどういったご用件ですか?」 総合受付に似つかわしいお人形のようなオネエサンが私に振り撒いたニコヤカはちっとも綺麗に見えなかった。 作り上げられた笑いなら笑わない方がマシ。 「お見舞いに」 「お部屋はどちらですか?」 「……特別室のシライシモリオです」 「……少々お待ちください」 お人形さんの元々作られた笑顔さえも消してしまうのは、白石の所為だと思われる。 こりゃ時間がかかりそうだ。 そう思って、受付を背にしてロビーを眺めた。 人だらけ。 外来の終了なんてとっくの筈なのに。 これだから大学病院にはかかりたくない。 朝早く来ても、予約をしていたって長い間待たされる。 祖母ちゃんが言ってたな。 教授先生に診てもらうんだもん、当たり前だ、って。 ばあちゃん、当たり前じゃないんだよ。 んなもん、当たり前なんかじゃない。 ばあちゃんは結局色んな事が手遅れであっけなくこの世を去った。 薬処方を知らせる掲示板は黄色い光で埋め尽くされていた。 「お待たせ致しました」 ボーッとしていて振り向いた先にお人形がまたニコヤカを振り撒き 「担当の方が降りていらっしゃるそうなので、お待ちください」 サラリとそう言った。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1024人が本棚に入れています
本棚に追加