カルテ3ー2

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担当って、……えっらい固いガードだなぁ。 まぁ、当然か。 あっちこっちで白石の魂を刈り取ってやろうっていうヤツは沢山いるだろう。 かくいう私もその中の一人だ。 白石に会うのは……会えるかどうかは分からないけど、とにかく会えたとすればこれで最後だ。 「有馬先生でしたか……」 聞き覚えのある声は、私の、斜め後ろくらいから掛けられた。 男の癖に、滑らかな音を出すのはブレイドさんだ。 「ああ、有馬先生、ご無沙汰しています 相変わらずお若い」 「……今晩は」 「さぁ、どうぞこちらへ」 相変わらず屈強な身体と見た目に比例しない柔らかな物腰、そっちこそいったい何歳なんだ、と疑いたくなる。 いや、やっぱり12年も経ったんだ。 若いままでいられる訳がない。 「有馬先生がお見えになるならみんな呼べばよかったですね」 軽いジョークだとしても、そんな事はしてもらいたくない。 「有馬先生、お元気でしたか?」 「お陰さまで」 本名は知らない。 みんなが"ブレイドさん"と呼ぶから 私もそう呼んでいただけ。 「ブレイドさんもずっと白石社長のお付きですか?」 「あはははは、お付きだなんて、小間使いですよ、何年たっても」 嘘ばっかり。 あんたはずっと白石の側近だったじゃない。 白石が不在の時はあんたが全て取り仕切ってたでしょうが。 それにあんたの目は怖いし ブレイド、なんて名前、めちゃめちゃ胡散臭いし、匂いまくるわ。 白石は大企業の社長をしているが実はそれは建前だ。 実際はそこら辺にフロント企業や企業舎弟を持つ "や"のつく商売をしている。 ブレイドさんは白石土建工業株式会社の専務取締役。 白石はそこの社長だ。 今じゃどうか知らないけど。 数年前に白石の肺に見つかった悪性新生物はもうあちこちに転移していて 切ったり、貼ったり、騙したりの治療を繰り返してきたらしい。
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