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おかしな話だ。
これが男と女が行き着くなんだろうか……。
って、いうか。
な、なに、なんだこれ……
「こら」
「はい?」
「そんな事をするな」
「へ?」
「もっと優しく扱え!」
「え゛ーーーっ」
「おまえ、……今まで何やってきたんだ……
家庭科の授業くらいあっただろ」
香川の呆れた音が斜め後ろから降りかかる。
「ゆで卵の殻も剥けないのか」
「……だって剥いた事ないもん」
「ないもん、じゃないんだよ!
お前皮膚も内臓もあんなに綺麗に剥くのに
なんで、こんな事が出来ないんだ!」
いや、それとこれとは違うんですよ?
手元の白身が抉れてちょっと黄身が出てしまったゆで卵を見てがっくりと肩を落とす香川は散らばった
殻をまとめ始めた。
「なんでこの上でやってんのに床に落ちるんだよ……」
私の立つ足元を指差しながら
また一際呆れた音をため息混じりに吐き出す。
新しい職場は大学院の非常勤医員、プラス香川の開業した病院の同じく非常勤医。
社会人大学院生の非常勤医員はとてつもなく休みがなく、忙しい上に安月給。
だけど、臨床についてはなかなかたくさんの研究が出来てこれはヨシとする。
途中で病棟に呼び出されて、台無しになることも多いけど。
休みになるとこうして香川がどこからともなく現れて"日常生活のイロハ"を教えるために後ろで腕を組んで監視するんだ。
「卵なんて剥けなくても苦労しないし」
「減俸だ」
「は?」
「綺麗に剥けなかったら減俸」
大学院の給料は激安、だから香川の病院では
オペ1本につき報酬を貰っていた。
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