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「強そうなのに」
あはは、と笑う顔が人懐っこそうに綻んだ。
"山河先生がイチオシだよねぇ"
イチオシの理由はこの笑った顔か。
こういうのが一番裏がありそうなんだ。
香川がそうだったじゃない。
ズケズケと踏み込んでザブザブと掻き混ぜてきたと思ったら自分がドップリ浸かって私を溢れさせた。
余計な事、しやがって。
……認めたくなかった。
助けられたんだとか
引っ張りあげてくれたとか
思いたくなかった。
「そうですか」
こんな裏がありそうな男とはかかわらない方がよろしい。
フイ、と視線を外して寄り付くなオーラを醸し
そのまま無言を貫いた。
隣から気配が消えてホッとしたのは事実。
だけど近寄って欲しくない、と思っているヤツほど近寄ってくるのは、何でかな。
香川の同級だから似たような人間なのか?
ほら、類は友を、ってなの。
「これなら飲める?」
山河が私の目の前に置いたのはプチプチの泡が弾ける液体。
「いえ、私はけっこ」
「まぁ、飲んでみなよ」
足の細いグラス。
ニコリと人懐っこい微笑みを散らし
それを私の前に滑らせて持ち上げる。
イチオシ?
どこが?
世の中の女は目が腐ってるんじゃないだろうか。
これはゴリオシだろう。
「有馬先生って、若いのに凄いって
俺らの間では噂になってるよ?
はい、乾杯」
これが、私と"泡"の出会いだった。
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