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病院には似合わない人が、隅っこに立っていた。
大きな体をわざと小さく畳んでいるのが
なんとなく滑稽に見える。
心拍が速いのは
何かよくないことが起きたのかも、と
思ったりするところがあるからだ。
例えば誰に?
誰の心配してるんだ。
「有馬先生」
「ブレイドさん!どうしたんですか!」
私の勢いに目を丸くしたブレイドさんは
すみません、と最初に謝ってしまった。
「何か、あったんですか」
「有馬先生、勤務中にも関わらず申し訳ありません。
実はお耳に入れておいた方がいいかと思った事がありまして」
やや、改まった態度で、いつもの滑らかな音を出したブレイドさんは小さな声で話し始めた。
「いずれはお分かりになる事なのですが……
先生がこの度醫院を引退される事に決まりました」
「えっ」
先生、というのは勿論、医療のイロハを私に教え込んだあの先生だ。
「先生ももう70を過ぎようかという年齢ですから、ご自分の後をどなたかに譲ろうとお考えになっていたようです」
例えそれが私では無いにせよ、私に何も知らせないなんて……
先生らしいと言えばそうなんだけど。
それでも水くさい。
……って、そんな仲じゃなかったか。
モヤリとする気分を振り払う。
すぐ隣の長椅子に、老夫婦が腰かけて
ブレイドさんは私を少しだけ離れた位置まで促した。
「醫院はあの場所にとっても、白石にとっても
無くてはならない存在のものです。
次の院長には最適なお方だと紹介しておられました」
「だ、だれがい」
「香川貴文(タカフミ)先生です」
「……え」
香川、貴文?
「香川?……って」
「こちらにいらっしゃる香川先生です」
「なんで」
「詳しい事は分かりかねますが、もう決定事項として取り扱いが為されています」
「……なんで……」
頭の中で色んなシミュが写される。
なんで……
なんで、香川が?
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