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帰るぞ、と、言った癖に
香川の車が滑り込んだのはウチではなかった。
さっきの店から5分とかからないところだもん。
家の近くでもない。
「おりて、有馬」
地下の駐車場から1階にエレベーターで上がり
待ってて、と言われたのはロビーだった。
柔らかなソファに身体が沈む。
ここはどこかのシティホテルだ。
どこかは知らないし分からないけど
カウンターの前に立つ香川の後ろ姿がやっぱり右へ左へとゆっくり揺れている。
「酔ってる……」
こっちに向かって歩いてくる香川の顔が険しいのは
私の酔っ払い具合いを悟っているからだろうか。
「立てるか」
「……はぃ」
エレベーターの中に入ると耳の中で鼓膜がパタッと閉じた音がした。
気圧の変化は好きではない。
無理矢理欠伸をすると
「眠いのか」
香川の静かな声と一緒に掌を掬われた。
いや、繋がれた?
違うな、握られたのか……どっちにせよおかしな行動だ。
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