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「有馬、水飲んで寝てろ」
私の肘から滑らせた掌は手首を掴み
キュ、とそこで強く絞められる。
「聞こえた?ちゃんと、寝てろよ」
酔っ払いの脱力を借りて香川の顔を見ずにコクコクと頷く。
赤くて熱い顔を見られたくなかった。
部屋は暗いからそんな事心配しなくていいのに、まともに働かない思考回路ではそんな簡単な事にも気付かない。
離された手首はパタリと地面に着地する。
香川から見たら完全に私はぐでんぐでんの酔いどれだろう。
静かに閉まったドアと同時くらいに
部屋の中が明るくなった。
あれ、いつ出て行ったんだ、と今さっきの事なのか
ちょっと前の事なのか、それさえも曖昧。
香川の出て行ったであろうそこを見上げると
カードキーが壁のホルダーに差し込まれていた。
「……心臓、噴火しそう……
なんか気持ち悪いし」
はぁ、と大きく吐き出した息がアルコールを沢山含んでいて白石を思い出した。
白石はよく酔っ払って私の部屋に無断で入ってきた。
私の知ってる世界は狭い。
医療の事にしても
普通の医大卒ではあり得ないような珍しい症例を人より少し多く経験しただけだ。
香川の言ったように銃創の処置は出来ても
酒への対処は出来ない。
そのまま地べたを四つん這いで移動して
ベッドへ潜り込んだ。
デジタルのメモリは2235。
まだまだ夜は始まったばかりなのに
私のはもう終わりそうだ。
抗う意思に畳み掛けるように睡魔が覆い被さってくる。
瞼を閉じた直後、沈んでいく身体と意識が重くてそのままそこに吸い込まれた。
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