カルテ4ー3

7/15
前へ
/37ページ
次へ
香川は鬱陶しい男だった。 いつまでも私に付き纏う、目障りな男。 自分から面倒な事に足も身体も突っ込んでくるようなハングリーな男。 苦手でめんどくさい…… 結び目に跡がついているネクタイを シャツと襟の間から抜き取り、ボタンを上から一つ、またひとつと外していくその手に戸惑いはない。 何が始まるんだろうか。 カッターの袖のボタンまでもが外されるの見て 「……どうして」 何かを話さなきゃ、間が持たないと シーツを掴む指に力が籠る。 「どうして私に構うんですか」 病院や白石の家以外で 男の身体を間近で見たのは初めてだった。 バックから注がれる淡くて蒼い光が眩しくて 目を細める。 ロックを解かれたベルト 捲られた布団 何か始まるとしたら、もう考えられるのは アレしかない。 「どうして? どうしてお前に構うのか?」 「面倒な事まで背負いこんで、バカみたい」 怖くなった私は身体を起こして ベッドから抜け出した。 正確には抜け出そうと、した。 「あ」 バスローブの結び目が解けるのがすぐ真下で見えて、加速に更にターボをブッ放して唸る心拍。 「お前に構う理由はひとつ。 腕がいいから」 パキン、と耳の奥の方で薄い何かが割れた音がした。 「どうしても欲しくなった」 顕微鏡の対物レンズが、カバーガラスを押し割った時みたいに軽くて薄い、音。 バスローブが掴まれるのと同時に香川はそれを引き寄せ、グイと腰まで下げると 直に掌を這わせてきた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

954人が本棚に入れています
本棚に追加