カルテ6

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深々と頭を下げられた。 いつもの事ながら、ほんとに周囲の目を気にしてほしい。 「ブレイドさん、それやめて」 苦く笑いながら言うと決って返ってくる答えは 「有馬先生を丁重におもてなししないと 社長が化けて出てきますから」 あれ、バージョン変わってる。 そうか、そうだよね。 白石は亡くなったんだから。 "化けて出てくる"になったブレイドさんの常套句。 出で立ちはまだ、黒いスーツに黒ネクタイを着用。 「喪」が明けるまではきっとこうなんだろうなぁ、と思った。 「有馬先生に来ていただけるなんて 社長も喜んでおられると思います」 車の扉を開けてくれて、中へ促され いつものお互いの定位置についた。 「葬儀には行けなくて、ご免なさい」 「とんでもない、お忙しいのは重々承知しております」 まぁ、行くつもりもなかったし どうせ行けなかったし。 あれから、季節がすっかり変わっていた。 桜が咲いたかと思うと直ぐに風が悪戯をして 薄い花びらを散り散りにさせる。 そして暑くもなく寒くもない4月の終わり。 やっと白石を嘲笑いに来た。 本宅に来るのは 久しぶりだ。 と、いうか、アレ以来ぶりだ。 変わっていない。 見映えは少しは経年変化してはいるが 門が開き、中へ入ると相変わらずきちんと手入れされた緑が、絶妙な間隔で並んでいる。 一際目立つ大きな木。 白石の前の代からずっと大事にされていたらしく 今も変わらずにしっとりと気配を醸している。 目を疑った。 そこで、同じような光景を見た事があったからだ。 木に登ったんだろう、枝に腰かけた 小学生くらいの男の子。 足をぶらぶらさせて、下にいるイカツイオジサンたちを困らせている。 私がまだここに来たばかりの頃、よく見た景色だった。 やっぱり小学生くらいの可愛らしい男の子が同じように木に登っていた。 あんなに可愛かったのに 今じゃ 「なんだ闇医者、なにしにきた」 こんな腐った口を叩くようになるなんて 世の中終わってる。 「あんたの親父を笑いにきたのよ」 「代表、有馬先生は闇医者ではござい」 「相変わらず口の悪い女だな」 「あんた程じゃないわよ」 代表と私はどうやら、相容れないらしいわ。
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