カルテ6

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カテーテル検査で右冠動脈完全閉塞。 「今本どうする」 「えっと、形成します」 「……まあ、そうだわな。 このままPTCA(経皮的冠動脈形成術)いきます」 「えっ、循内(循環器内科)に連絡しないんですか」 今本は逃げ腰だ。 「一時間前にこっちから一人送ってまだ処置中です」 ナースの声にがっかりする表情を隠さない。 「あんたねぇ、救命になんの為に来てんのよ この際何でも屋になりなさい。 はい、やっちゃいますよー」 まだ腹を括れない今本。 「ほら、手伝ってよ 私と組んだら半年後には同期の出世頭になれるわよ」 こうして 夜は更けていく。 自分は眠る事は出来なくても、ここに助けを求めてやって来た誰かが眠れるようになればそれでいいんだ。 いつからだ。 こんな風に考えるようになったのは。 ……これは、お節介なボスのおかげか。 私はほんとに恵まれていたのかもしれない。 そんなボスから連絡があったのは 朝陽が眩しく救命センターの搬送入り口を照らし始めた頃。 ボスとは、白石の訃報を受けたあの日、あの時以来 まともに会ってはいなかった。 普段なら別にそんな事は気にしない。 何ヵ月も連絡すら取らない事だって今までにもあったし。 でも ちょっと気不味い気持ちになるのは 何故に? 何故に、もなにも。 きっと陣内との事があるからに決まっていたり ボスの意味不明な行いの事があるからに違いない。
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