カルテ6

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ブレイドさんもしつこいな。 「あれ?いらないって事で話は落ち着いた筈なんですが…… ボス、ブレイドさんに渡しといてください」 車の中に音がない。 いつもなら薄く流れている洋楽も 今日はなかった。 「どうして受け取らないんだ」 「……いらないからです」 「真っ当に稼いだ金じゃないと思ってるからだろ」 ……ボスがつっ突いてくるのはいつでも癪に障るところばかりだ。 昔とほんとに変わらないなぁ、この人。 「中身は確認したのか」 「するわけないじゃないですか」 二人の会話が途切れるごとにシンと鎮まる車内。 もう、いい加減にしてもらいたい。 「見た方がいい」 「いーえ、結構です」 溜め息と同時に言って 「ボス、話がそれだけなら下ろしてもらってもいいですか?」 更に溜め息を重ねた。 もう、マジでめんどくさい。 ボスがまだ"香川"だった頃、よくそう思った。 なんでこんなにめんどくさいヤツなんだって。 「いいから、見てみろ」 ポン、と太腿の上に乗せられた包み。 こないだ確認しただけでも何冊かの通帳があった。 と、いう事は金額は不明にせよ幾らかは入っているという事だ。 見ないっつったら見ないし いらないっつったらいらないんだっつーの。 そのままにしておいた。 触れもせずそのままに。 頑固だって? そんな事はない、私にはこれを受け取る権利なんてないし。 「ボス、そういえば…… 私を白石のところから連れ出す為に 父の借金残高肩代わりしてくれたんですよね?」 白石もブレイドさんも誰も教えてくれなかったけど そうに決まってるよね。 だって あんな酒にまみれて人生堕落した男にいったいどれだけ貸して どれだけ貪ろうとしたんだっつーの。 「ひょっとすると足りないかもしれませんが どうぞ、お役に立ててください」 コンソールボックスの上にそれを置く。 黒い革張りのそこに紫なんて ちょっとしたお洒落じゃない?なんて思ったりしていると、車が急に路肩に停車した。 ハザードをたいてまでそうした意味は直ぐに分かる。 中身を確認するためだ。 そうまでして、どうして見せたいんだろう。
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