カルテ6

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「お前が新宿醫院を辞める条件に オレは一切金は支払っていない」 「え」 だって。 私が自分の人生の金の為の"妊婦"だった頃に 父親が膨らませた借金総額は億を余裕で超えていた。 それがたった6年ぽっち働いたくらいで返せる訳のない利息も上乗せされている筈だ。 あの頃は身請けされたんだ、と思っていた。 「勿論、簡単にはいかないと思ってはいたんだ。 ……だけどお前をあそこから出す事を決めたのは お前の師匠先生だ」 「え……先生、が」 「先生の身体の具合は余り良くはなかった。 オレが主治医になることと、新宿醫院の跡を引き継ぐこと、それからお前の面倒をみることを頼まれた」 そんなこと…… どうして。 「どうして……」 「どうして?お前がかわいかったからだろ」 ボスが紫の包みを開き、通帳の束を取り上げた。 嫌でも視界に入ってくるのはボスの腕が 私の目の前に差し出されたからだ。 その数、……7冊。 私はそれを受け取る。 今となっては、昔話。 笑えるくらい黒いウィットに富んだ昔の話だ。 そんな事実があったなんて知らないし。 ……当たり前だ、誰も教えてはくれなかったんだから。 「先生もお前の腕は認めてただろ? 望絵、お前はほんとに腕がいい。 それはお前のその腕に対する正当な評価だ」 7冊は少しずつ色褪せ具合が違う。 車の中はじゅうぶんな光がなくてはっきり何色とは分からないが もう20年近く経つんだ、と そう考えると軽い筈の通帳の束が途端に重たく感じた。
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