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救急隊員と男性が一人ちょうど目の前にいて
私を見た瞬間、隊員はファイルを下ろし、男性がこっちに踏み出した。
「先生!み、美恵は!美恵はっ」
「こちら、ご主人です」
「有馬と言います」
左右の瞳が大きく揺れて、私を探る。
不安げなそこには多くの期待が込められていた。
「お子様の娩出は無事に完了しました。
今は新生児ICUにいます。
奥様は……みえさんは心停止から蘇生を続けましたが
力及ばず……」
静かに頭を下げた。
崩れる男性を隊員がなんとか支えていて
そんななかで聞こえてくる呟きは
「どぅして、どうして、助けてくれなかったんですか……!!」
何度も何度も耳した事のあるものだ。
掌をきゅ、と握り締める。
「本当に、ちゃんとやったのか、あんたら!!」
こんな時は、自分の無力さを痛感する。
患者の家族がそう思うのは当たり前の事で
私たちがいったい何をどうして、こうなったのかという事を実際に見ていないんだから仕方がない。
「経緯をご説明します」
近くに記録を持ったナースが出てきて
私と一緒に、患者の家族を別室へ促した。
別に自分の腕を過信している訳でも、慢心をぶっこいている訳でもない。
これは分かってもらうしかないんだ。
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