カルテ6ー2

12/36
前へ
/36ページ
次へ
深夜の攻防は容赦なく続く。 救命にやってくる命の灯火は消してはいけないものばかりだ。 「有馬先生!次、入れる??」 「あー、主任」 「大丈夫?」 医局真横のカウセリングルームから出てきたばかりの私をちょうどよかったとばかりに捕まえた主任。 「大丈夫ですよ、ご主人に説明はしましたから、ってゆーか、主任こそ大丈夫ですか?」 「なにが?」 「え、鬚」 「ひげっ!」 ひぃ、と顔色を青く染めた主任が顎の辺りを押さえて隠す。 「よ、余計なお世話よっ! とにかく、一緒に来て!!」 「はいはい」 言われんでも行きますから! 私をむんずと引っ張って救急搬送入り口へと向かう主任が 「赤ちゃん、問題ないみたい。 今のところ。 陣内先生が有馬先生のお陰だって言ってた。 お父さんもきっと分かってるよ」 「そうですね」 たられば、を言えば仕方がない。 それで助かるんだったら亡くなる人なんていない。 "どうしてもっと続けてくれなかったんだ" と、ご主人が涙ながらに語っていた。 "後少しでも続けていたら、生き返ったかもしれない"と。 そうなんだ。 実際にそういう例もある。 だけど、現実はそんなに甘くなくて もし仮にそうなったとしても 今度は"目覚めないかもしれない"事実が家族を襲う。 「55歳男性、飲酒して帰宅後体調不良を訴えて搬送。 AP(狭心症)既往でこのところ違和感があったとか。 奥さんの話では」 「心筋梗塞じゃなきゃいいですね」 「まあね」 こうして、ひとつの事だけに留まってはいられないリアル。 決してどうでもいい訳じゃない。 だけど、まだまだやらなきゃならない事が後をたたないのが事実だった。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

897人が本棚に入れています
本棚に追加