カルテ6ー2

14/36
前へ
/36ページ
次へ
え? な、 な、なにを なにを、するぅっ!? 頭を撫でていた掌が頬を包み滑る。 親指が鼻の脇を通り、唇を捲りながら顎へ到達した時には 人差し指が鎖骨をなぞった。 じ、陳内! おい、おまえっ! 固まったまま動けない私が何も言わないのをいいことに、ちょっとした大胸筋に指を這わせるタコ男! ひぃ! ひぃ! ちょ、 「陣内!」 これ以上の侵入をやっと拒んだ私の手。 見上げた陣内は、目が合った瞬間にニッカリと笑った。 「あ、怒った」 「は?」 ケタケタと笑いながら引っ込めた手。 その手が今度はスマホをなぞり始めた。 不覚にも、凄まじい笑顔にやられてまた固まってしまった私は、ポケットで震えるスマホにビビってしまう。 「わ!」 ラインだった。 しかも、陣内。 な、なに、コイツなに! こんなに近くにいるのに、ラインって……! 『幸せホルモン出ました?』 は? 『それとも』 はぁ? 『濡れた?』 ギュッと縮まったのが分かった。 心臓でいうなら冠動脈、鷲掴みにされた、的な。 子宮でいうなら入り口、抉じ開けられた、的な…… パブロフは最終局面を迎えるくらい完成している。 見上げたそこで 私は敗北を悟った。 私には目もくれず、スマホに向いたままの陣内は、妖しくて綺麗でそれを見て間違いなく"濡れた"んだから。
/36ページ

最初のコメントを投稿しよう!

897人が本棚に入れています
本棚に追加