カルテ6ー2

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結局、聞きたい事は聞けないまま また滞りなく一日が始まる。 陣内の生い立ちは気になるものの…… 仕事をする上では際限なく問題ない。 だって、素晴らしい立ち回りだからだ。 私のしたい事は邪魔しないどころか 先回りしてフォローする。 無茶にも無謀にも文句言わずについてくる。 「出血部位確認、有馬さん」 「あ、……うん」 今まで考えた事もなかったけど 「……なんか、思い出したわ」 「何をですか」 「内緒」 「なんですか、それ」 まさか、言えない。 先生とオペしてるみたいだ、とか。 いや、この場合私が先生になるんだけども。 だから、陣内が私みたいなんだけど。 それくらい息の合った…… 「いやー、二人、ものスッゴい絶妙な掛け合いですよね、いつ見ても」 三原が手元を覗き込むような素振りを見せる。 だよね。 息、合ってるよね。 「たまに相性合うドクターがいるんですよ、オレ」 オペで身震いしたのは、数えるくらいだ。 無免許で人の中に手を突っ込んだ時。 無免許で人の身体を切った時。 無免許で死人の中から色んなものを取り出した時。 なに、コイツ。 陣内、あんた誰なのよ。 そろそろみんな知りたいわよ。 かくいう私が一番知りたい。 視線を手元に落とす。 この持針器を持つ手と私を掴む手が 同じ男のものだという事にとてつもなく身震いした。
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