カルテ6ー2

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「有馬さんは仕事だけですね」 「は?」 「一流なのは仕事だけ」 「はぁ?!」 おのれ、陣内め! そんなにサックリ言い捨てやがってコイツ。 コンビニ袋に空き缶を詰めながら軽快なステップで部屋を片付ける陣内。 「あ」 「なんですか、有馬さん」 また、呆れた溜め息混じりのセリフ。 いや、いや、ね? 気付いた事がある。 「私、さっき掃除したんだよ……」 「……どこをですか?」 「え、いや、その辺ってか、この部屋……」 特にリビング、と こっちのテーブル。 指差したこっちのテーブルの空き缶を始末する陣内。 「私が掃除してもさ、なんでか綺麗になったとこにゴミが出るんだよね?」 陣内が片付けた後にゴミは出ない。 そう言えば、ボスが言ってたっけ。 "動くな、手を出すな、息もするな"って。 いつもの事だったから気にしなかったけど。 「有馬さん、ビール飲みながら掃除しました?」 カクカクと頷いて陣内が持つコンビニ袋に目を向ける。 「あのねぇ、掃除するときは 掃除だけ、してください だから、空き缶が散乱するし スルメのささくれは散らばるし 魚肉ソーセージ、食べました?」 陣内が人差し指と親指でつまみ上げた朱色の抜殻。 「食べました」 「食べて出たゴミは捨てましょうよ」 「はい……」 「オペの時、ビール飲みながらメス持ちますか?」 「いいえ……」 くそう。 「切除個所、身体の中にほっときますか?」 「イ、イイエ……」 くそう。 もっともなだけに、何も言い返せぬ。 じ、陣内め。 「おんなじですよ」 「……脂肪組織は戻すじゃん……」 (臓器移植でドナーの脂肪組織はドナーに戻す) 「……ガキじゃないんだから、人生80年の折り返し地点でしょ?」 「38!」 よれよれの朱色のビニールがゴミ箱へ移された。 暗に40だと言われてるようでムカッとする。
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